母との行き当たりばったり旅行
先日ふと、母と行った行き当たりばったりの旅行のことを鮮明に思い出しました。
母は行き当たりばったりが好きで、電車の時間も旅館の予約も何もせずに、小さいカバンだけ持って旅行がしたいと私に持ちかけてきました。
当時私は大学1年生くらいだったと思います。
母に言われるがまま、私も荷物は肌着とウォークマンくらいだけ持って一緒に地下鉄に飛び乗ったのです。
当時は母は父と別居中で、私は母と駅で待ち合わせて行ったのです。別居のことで暗くなりがちな私を励まそうと、母はそんな企画を思いついたのかもしれません。
地下鉄に乗ってどこへ行こうかと相談して、上高地に行こうということになりました。
上高地に行くにはまず名古屋に行かなければと考え、新幹線で名古屋へ向かい、在来線に乗り換えて上高地方面へ向かったように思います。
なにしろ今のようにスマホの地図アプリで経路が一発でわかる時代ではなかったから、名古屋に着いてから駅で「上高地に行きたいんですけど…」と駅の人に聞いて切符を買ってという、のんびりした有様でした。
上高地の手前の松本に着いたらもう午後5時頃で、上高地行きのバスがなくなっていました。仕方なくタクシーに乗ることにして、「上高地」と告げると、「ホテルは予約されてますか?」と運転手さんに聞かれました。もしかすると行き当たりばったりの旅行者が多かったから聞いてくれたのかもしれません。予約していないことを伝えると、大慌てで知り合いのホテルに公衆電話から掛け合ってくれて、狭い和室に泊まれることになったのでした。
翌朝、大正池に散歩をして、チェックアウトしてバスで乗鞍岳に向かいました。母が行きたいと言ったからですが、行ってみたら乗鞍岳は冬みたいに寒かったのです。ジージャンとブラウスとスカートというような出立ちでは寒すぎてバスの待合室のストーブから動けず、そのまま飛騨高山へ向かうことになりました。
飛騨高山に着いて町を少し散策して五平餅を食べたことを覚えています。
結局、その日は行き当たりばったりの貧乏旅行なので、うらびれたビジネスホテルのようなところに泊まることになりました。
母と布団を並べて寝ながら、私は家のステレオで録音しておいた「ジェットストリーム」をウォークマンで聞いていました。
母が「何聞いてるの?」と言うので片方のイヤホンを貸して聞かせてあげました。
城達也さんの深い声と鳴り響くリチャードクレイダーマンのピアノ。
一つのイヤホンを片方ずつ耳に入れて聞く親子。
当時は恥ずかしかったけど、今となっては良い思い出です。
母が亡くなったあと、遺品の中から当時私が使っていたウォークマンが出てきました。子供も生まれて聞くこともないからと母にあげたのだと思います。母はあのウォークマンをみて、あの行き当たりばったり旅行を懐かしんでいたのかもしれません。
私もあの旅行は瑞々しいカラーの記憶で残っています。
楽しかったな、お母ちゃん、旅行誘ってくれてありがとうね。
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